ペスト菌(Yersinia pestis)は、
グラム陰性の
通性嫌気性細菌であり、
腸内細菌科に属する。両極染色で、外見は
安全ピンのような形に見え、
ペストの
病原体となる。ペストは人類の歴史を通じて最も致死率の高かった
伝染病であり、1347年から1353年にかけて流行した際には
ヨーロッパの全人口の約3分の1が死滅した(1347年10月、中央アジアからイタリアのメッシーナに上陸、1348年にはアルプス以北のヨーロッパにも到達)。
かつて
ホルマリンで不活性化した
ワクチンが使われたことがあったが、活性化した菌が残っている強い危険があるとして
アメリカ食品医薬品局により回収された。効果は薄く、重度の
炎症を引き起こすこともあった。F1抗原、V抗原の部位を
遺伝子工学により改変したワクチンの研究が試みられているが、F1抗原を欠いたものにも強い毒性があり、V抗原は野生でも変性しやすいという性質があり十分にうまくは行っていない。
3亜種のうち、
Medievalisと
Orientalisの2亜種については、それぞれKIM株とCO92株を使って全長の
ゲノム配列が解読された。しかし2006年現在、
Antiquaのゲノムの全長配列はまだ明らかとなっていない。KIM株の
染色体の全長は4,600,755
塩基対で、CO92株の染色体の全長は4,653,728塩基対の長さであった。類縁種の
仮性結核菌(
Y. pseudotuberculosis)や
エルシニア感染症を引き起こす原因菌(
Y. enterocolitica)などと同様に、ペスト菌の遺伝子は
プラスミドpCD1を持っていた。さらにペスト菌は他のエルシニア属細菌が持たない2つのプラスミドpPCP1とpMT1を余分に持っていた。これらのプラスミドとHPIと呼ばれる
病原性島は、ペスト菌に特有の病原性を発現させるいくつかの
タンパク質をコードしていた。これらの毒性は、細菌が宿主に付着し宿主に自己のタンパク質を持ち込むため、細菌自身が宿主の細胞に侵入するため、そして
赤血球から
鉄イオンを引き剥がして利用するために必要とされる。ペスト菌と仮性結核菌の違いは特異的な毒性を示すプラスミドの有無のみであり、仮性結核菌はペスト菌の祖先だと考えられている。